佐藤柔心斎

 前回は太極拳の健康面を書いてみたので、今回は太極拳の本質、攻防一体の武術としての方向から太極拳を見てみたいと思います。

 上記の写真は、形意拳で取り上げたものと同じブルータススペシャル号の最後のページに紹介された佐藤金兵衛翁の太極拳の演武です。これは太極拳の準備式(渾元椿)から太極が生じ(開太極)、太極拳の始まりの動作で、この動作の中に実は太極拳の攻防一体の技が含まれています。

 「両手をゆっくりと前方に上げ、ゆっくりと息を吸いこみながら、手首を曲げて指を自然に下げる。手の平を下に向け、肘を曲げたまま、手首を下から上に額の高さまで持ち上げる。」この動作は、敵が上段打に来たのを瞬時に手首で下から跳ね上げて、敵の拳力の方向を変えています。両手を上に持ち上げる動作は、敵のパンチ力を受け流し、前に大きく崩すと同時に、敵のガードをなくして、急所を開けさせ、点穴しやすくさせています。また、両手を敵の顔の前に持ってきているため、再度の顔面突きを防いでもいるのです。

 「持ち上げた両手を下へゆっくり下ろすと同時に腰を緩めるように気を落としつつ、吸いこんだ息をゆっくりと吐きながら、姿勢を低くし、肩と肘は下げたまま、両手の平底の部を前に伸ばす。」この動作は、防御のために上げた手を下ろす力と、膝の屈伸運動による重力が手に集中し、その力で急所(乳下部:雁下)を点穴で攻めることにより、敵を倒すことが可能になるのです。太極拳の攻防は、敵の攻撃に対しての防御が即攻撃に変化していくもので、体重や身体の大小に関係はありません。

 私の母親は、入門見学に来た男の人たちにこの動作をやってみせて、立った状態から下に落とし、びっくりさせ、よく入門させてしまったものでした。このように、太極拳を稽古すれば誰にでもその極意を知ることができるのです。

全日本中国拳法連盟のブログより: